歯科医院の新規開業は、なぜ10年前より難しくなったのか。「お金」と「人」を数字で読み解く

新規開業

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皆さん、こんにちは!
歯科医院地域一番実践会の萩原直樹です。

歯科医院の新規開業を考え始めた勤務医の先生とお話ししていると、判断材料が10年前のイメージのまま止まっていることが少なくありません。7,000万円ほど借りて、スタッフを4〜5人集めれば回る。だいたいそんな感覚です。

しかし、いま実際に開業した先生方のデータを並べると、その前提はすでに成立していません。必要な資金は1.5〜2倍、そして採用と定着の難易度は、資金以上に厳しくなっています

この記事では、歯科医院の経営コンサルタントとして数多くの医院の数字を見てきた立場から、新規開業の難しさを、公的統計と業界調査の具体的な数字で分解します。悲観論を煽るためではなく、正しい前提で計画を立てていただくためです。

1. まず前提:市場はもう増えていない

開業計画の土台になる市場環境から確認します。

指標 数字 出典
歯科診療所数(2016年ピーク) 68,318件 厚生労働省 医療施設調査
歯科診療所数(直近) 約65,957件 同上
過去10年の施設数の増減 約3,156施設の減少 帝国データバンク
歯科医院の倒産(2025年度) 31件(前年度20件/20年で最多) 東京商工リサーチ
歯科医院の休廃業・解散(2025年) 147件(過去最多) 帝国データバンク

ポイントは2つあります。

ひとつは、歯科医院の総数はすでに減少局面に入っているということ。コンビニより多いという決まり文句は、10年前の話に近づきつつあります。これは新規開業にとって追い風の要素です。

もうひとつは、それでも倒産・廃業が過去最多を更新しているということ。2025年度の歯科医院の倒産31件は前年度の1.5倍で、しかもその97%が破産です。数が減っているのに潰れる医院が増えている。つまり、淘汰のスピードが供給減のスピードを上回っているというのが実像です。

収益面も見ておきます。
第25回医療経済実態調査(2025年11月公表)によれば、個人立歯科診療所の損益差額(=院長の取り分)は次の通りです。

  • 平均値:1,408.7万円(前年比+1.8%)
  • 中央値:1,023.5万円(前年比−4.4%)
  • 損益差額750万円未満の医院:全体の40.0%
  • うち500万円未満:全体の28.0%

平均は上がっているのに中央値は下がっている。
これは上位が伸び、下位が沈む二極化の典型的なサインです。さらに医療法人立になると損益率は5.5%まで落ち、33.6%(3分の1)が赤字です。

2. 【お金】開業資金は10年で1.5〜2倍になった

2-1. 資金総額のリアル

2010年代の歯科開業は、テナントで5,000万〜7,000万円というのが一般的なレンジでした。現在の相場はこうです。

モリタ調査(2025年10〜11月・2020年以降開業の歯科医師129名)

開業形態 資金総額の分布
新規テナント開業 7,500万円〜1億円未満が50.5%
新規テナント開業 1億円以上が13.0%
戸建て開業 1億円以上が68.9%

内訳の相場(歯科ディーラー各社の公表値)

  • 内装工事費:坪単価70万〜120万円 → 30坪なら2,100万〜3,600万円
  • テナント開業の総額:8,000万〜1億3,000万円(運転資金込み)
  • 建築(戸建て)開業の総額:1億〜2億円(土地代を除く)
  • 設計監理料:建築価格の10〜15%

10年前の感覚から見て、ざっくり1.5〜2倍。とくに効いているのが内装工事費です。建設資材と職人の人件費の高騰がそのまま坪単価に乗っており、同じ30坪でも1,000万円以上高いという状態が常態化しています。

2-2. 設備は円安と高機能化でさらに上がった

歯科用CTの価格帯を見てください。

メーカー・機種 価格
モリタ ベラビューX800 約960万〜1,800万円
ヨシダ エクセラSmart 3D 約1,280万円(セファロ付1,530万円)
朝日レントゲン SOLIO XZ II 約1,500万円
ジーシー Aadva GX-100 3D 約1,000万〜1,500万円
海外製(Vatech等) 400万〜800万円台

ここに設置工事費が数百万円加わります。CTはあれば有利な設備から、無ければ患者に選ばれない設備へと変わりつつあり、事実上の必須投資になりました。ユニット、マイクロスコープ、口腔内スキャナー、滅菌機器と積み上げていくと、設備だけで3,000万〜5,000万円は珍しくありません。

2-3. そして金利が動き出した

これが直近2〜3年で決定的に変わった点です。日銀の政策金利は2025年12月、2026年6月と引き上げが続き、現在1.00%の水準にあります。ゼロ金利を前提にした借入コストは実質ほぼゼロだという感覚は、完全に過去のものです。

返済シミュレーション(元利均等・15年)

借入額 金利 月返済額 年間返済額 総返済額
7,000万円 1.0% 41.9万円 503万円 7,541万円
7,000万円 1.5% 43.5万円 521万円 7,821万円
1億円 1.5% 62.1万円 745万円 1億1,173万円
1億円 2.5% 66.7万円 800万円 1億2,002万円

歯科医院の新規開業における借入額・金利別の年間返済額の比較グラフ
7,000万円・金利1.0%(月41.9万円)から、1億円・金利2.5%(月66.7万円)へ。差額は月24.8万円、年間約298万円です。

この差が意味するものは、以下の点です。
限界利益率を80%と置くと、毎月31万円、年間約372万円の売上を追加で作らないと、10年前と同じ手取りにならないということです。保険中心の医院で患者単価6,000円なら、月に約52人分、1日あたり2〜3人分の新患を余分に確保し続ける必要がある計算になります。

2-4. 自己資金は入れられていないのが現実

同じモリタ調査の自己資金比率です。

  • 自己資金30%未満:88.4%
  • 自己資金10%未満:34.1%
  • 自己資金ゼロ:26.4%
  • 金融機関融資が50%以上:85.3%

つまり9割近くの先生が、総額1億円クラスの投資を自己資金3割未満で始めている。資金総額が1.5〜2倍になっても自己資金が同じペースで増えるわけではないので、レバレッジだけが年々高くなっている構造です。

なお、黒字化までの期間は6か月未満が61%、1年以内が約75%と、立ち上がり自体は決して悪くありません。問題は黒字化のスピードではなく、黒字になった後の返済負担の重さにあります。

3. 【人】なぜマネジメントがこれほど難しいのか

資金の話は、突き詰めれば計算と計画で対処できます。多くの先生が本当に苦しむのは、開業してからの人の問題です。ここを数字で分解します。

3-1. 採用市場:新卒歯科衛生士の求人倍率は23.1倍

全国歯科衛生士教育協議会の調査(2026年6月公表)による新卒歯科衛生士の求人人数倍率は23.1倍。2017年以降、一貫して20倍を超え続けています。

学生1人に対して23件の求人があるという状態です。開業したばかりで実績も口コミもない医院が、この市場で名前を知られている大型法人と同じ土俵に立つことになります。これが新規開業の採用の実態です。

さらに構造的な問題があります。

  • 歯科衛生士の免許登録者:約30万人
  • 実際の就業者:約14万人
  • 潜在歯科衛生士:約16万人

歯科医院の新規開業で課題となる歯科衛生士の就業状況を示すグラフ
資格保有者の半分以上が現場にいない。母集団そのものが供給不足なのではなく、戻ってこられない、あるいは戻りたくないと感じさせる職場環境が業界の構造問題として横たわっています。

3-2. 賃金:上げないと採れない、上げると利益が消える

項目 数字 出典
歯科衛生士 平均年収 396万300円 令和7年賃金構造基本統計調査
歯科衛生士 平均月給 29万2,500円 同上
歯科衛生士 初任給 24万300円 同上
最低賃金(2026年度目安) 全国平均1,176円(+55円) 中央最低賃金審議会

最低賃金1,176円は、フルタイム換算で月額約20.4万円。パート・受付・歯科助手の下限が一気に押し上げられ、衛生士と助手の給与差が縮まり、現場に不満が生まれるという二次的な問題まで引き起こします。

若手歯科医師の高騰はさらに顕著です。

  • 数年前:研修修了1年目 月25万円 → 2年目30万円 → 3年目35万円 → 4年目40万円
  • 現在:研修修了1年目から月40万円が相場、50万円以上を提示する医院も。3年目で年収800万〜900万円、4〜5年目で1,000万円超の提示も珍しくない

初任給だけで月15万円、年間180万円の上昇です。分院展開や2人体制を前提にした開業計画は、この時点で採算が崩れます。

そして重要なのが、この人件費上昇を診療報酬が吸収しきれていないという点。第25回医療経済実態調査では、個人立歯科診療所の給与費は前年比+3.3%、歯科技工委託費は+5.9%、委託費は+5.4%の伸びに対し、医業収益の伸びは+2.5%。令和8年度診療報酬改定は本体プラス3.09%(2年度平均)で改善方向ではあるものの、コストの上昇が収入の上昇を上回る構図は続いています。

3-3. 定着:採用よりも難しいのは辞めさせないこと

指標 数字
歯科衛生士の離職率(勤務5年未満) 38.7%
歯科衛生士の離職率(5〜10年未満) 19.9%
歯科衛生士の平均勤続年数 7.5年(全職種平均12.1年)
転職経験のある歯科衛生士 80.8%
4回以上の転職経験(非常勤) 27.9%

入職5年未満で4割近くが辞める。 ここに採用コストを掛け合わせてみます。

求人媒体費・紹介手数料を1人あたり50万〜100万円、教育に要する期間を半年(平均年収396万円+社会保険料の半年分のうち、生産性5割分=約110万円を投資と見る)とすると、衛生士1人の採用・育成コストは概ね160万〜210万円。5年未満で38.7%が辞めるなら、衛生士3名体制の医院で、5年間に1名分以上のコストが消えている計算になります。

3-4. 歯科医院のマネジメントが構造的に難しい5つの理由

数字の背景には、歯科という業態固有の構造があります。

① 少人数ゆえに、1人の離脱が致命傷になる

スタッフ8名の医院で衛生士1名が抜けると、稼働の12.5%が消えます。一般企業なら補充まで待てば済む欠員が、歯科ではアポイント枠の削減=直接的な売上減に直結します。代替が効かない国家資格職なので、他職種でカバーもできません。

② 院長がプレイヤー兼マネージャーである

院長は診療の最大の稼ぎ手です。マネジメントに時間を割くと売上が落ちる。だから後回しにする。すると人が辞める。辞めるとさらに診療に入らざるを得なくなる。この悪循環が新規開業の医院で最も頻繁に起こります。返済が重いほど診療を止められないため、資金の問題と人の問題は密結合しています。

③ 評価基準を作りにくい

歯科衛生士の仕事の質は、SRPの丁寧さ、患者との信頼構築、リコール率など、数値化しにくいものばかりです。基準がないまま昇給を決めると、あの人だけ贔屓されているという不公平感が生まれます。離職理由の上位は常に人間関係ですが、その多くは実のところ評価と処遇の不透明さから始まっています。

④ 密室・固定メンバーの職場である

30〜50坪の空間に同じメンバーが毎日、8時間以上。部署異動も配置転換もありません。人間関係がこじれたときの逃げ場が構造的に存在せず、関係悪化が即・退職に直結します。

⑤ 教える技術を誰も習っていない

歯科医師は歯科医療の教育は受けていますが、人の育て方・面談の仕方・フィードバックの与え方を体系的に学ぶ機会はほぼありません。勤務医時代に見てきた前院長のやり方をコピーするしかない。それが合わなければ、そこで詰みます。

4. 歯科医院の新規開業前に、何を準備すべきか

① 金利を上振れさせた計画を作る

金利1.0%ではなく、2.5〜3.0%で試算した返済表で損益分岐点を出してください。政策金利1.00%の局面では、これが最低限の保守性です。

② 人件費は開業時ではなく3年後で見積もる

初年度の給与水準で計画を組むと必ず破綻します。毎年3〜5%の昇給を織り込んだ5年分の人件費表を作り、その上で成立する売上目標を設定してください。

③ 採用は開業6か月前から動く

求人倍率23.1倍の市場で、開業1〜2か月前に募集をかけて集まる保証はどこにもありません。開業前から人が確保できているかどうかが、初年度の売上を決めます。

④ 評価と給与のルールを、1人目を雇う前に決めておく

後から作るルールは、必ず誰かの不利益変更になります。スタッフ1人目を採用する前に、等級・昇給基準・賞与の考え方を紙にしておく。これが最も費用対効果の高い離職対策です。

まとめ:歯科医院の新規開業で押さえておくべき数字

  • 開業資金は10年で1.5〜2倍。テナントで7,500万〜1億円、戸建てで1億円超が標準になった
  • 政策金利1.00%時代に入り、借入1億円・金利2.5%なら年間返済800万円。10年前との差額は年約300万円
  • 9割近くが自己資金30%未満で開業しており、レバレッジは年々高まっている
  • 新卒歯科衛生士の求人倍率は23.1倍、免許保有者の半数以上が非就業
  • 若手歯科医師の初任給は月25万円→40万円へ。給与費の伸び(+3.3%)が医業収益の伸び(+2.5%)を上回る
  • 勤務5年未満の離職率は38.7%、平均勤続年数は7.5年

新規開業が難しくなったのは事実です。ただし、それは準備の精度で差がつく市場になったということでもあります。実際、黒字化まで1年以内が約75%という数字は、正しく準備すれば立ち上がること自体は難しくないことを示しています。

難しいのは、その後10年、返済と人件費の上昇に耐えながら黒字を維持し続けることです。ここは気合ではなく、数字と仕組みで設計すべき領域です。

開業計画の数字を、一度第三者の目で確認しませんか

ここまで読んで、ご自身の事業計画の前提が少し気になった先生もいらっしゃると思います。金利を何%で置いているか。3年後の人件費をいくらで見込んでいるか。開業6か月前に採用が動き出せる段取りになっているか。この3つを他人の目で点検するだけでも、計画の精度は確実に変わります。

逆に言えば、ここを曖昧なまま融資を実行してしまうと、あとから修正するのは容易ではありません。返済条件も、内装も、採用した人の給与も、開業後に巻き戻すことはできないからです。開業計画で一番お金がかかるのは、判断を間違えたときではなく、間違いに気づくのが遅れたときです。

私たち歯科医院地域一番実践会では、初回無料の経営相談を行っています。全国866医院を支援するなかで蓄積したデータと事例をもとに、先生の計画のどこにリスクが潜んでいるかを具体的にお伝えします。

  • 相談料:初回は無料(2回目以降は有料)
  • 所要時間:1回あたり1〜2時間(ご都合に合わせて調整可能)
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事前にカウンセリングシートをご記入いただくため、当日はあいさつではなく数字の話から始められます。1〜2時間で、先生の計画のどこが弱点になりやすいかを整理してお持ち帰りいただけます。

ご相談いただくのは開業前の先生だけではありません。開業3年目で返済と人件費のバランスに悩んでいる先生、衛生士の退職が続いて採用が追いつかない先生からのご相談も多くいただいています。今すぐ開業する予定がなくても、判断材料を増やす時間としてお使いください。

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投稿者

地域一番チーフディレクター 萩原 直樹
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