歯科技工士のいない世界は?

歯科医院経営ブログ

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こんにちは、地域一番実践会の吉村です。

 

突然ですが、みなさんは歯科技工士のいない世界は考えられますか?

当然、歯科技工士がいなかったとしても、入れ歯や補綴物は作らないといけないので、誰かがその役割を担う必要があります。

歯科技工士の代わりに歯科衛生士にしてもらうおうと思ったとしても、歯科医師法、歯科技工士法、歯科衛生士法など様々な法律が絡むのでできません。

 

なので、

歯科技工士がいない ≒ 外注もできない

と考えるならば、歯科医師が代わりに技工業務を行う必要が出てきます。

歯科技工士の歴史を振り返ってみると、歯科技工士が国家資格化されたのはわずか70年ほど前の昭和時代です。

それよりもっと前、例えば江戸時代には木製の入れ歯が使用されており、そのときは歯科技工士は存在しないので、歯科医師や無資格者である彫刻家が入れ歯を作成していたそうです。

 

しかし、今は歯科技工士に技工物を作製してもらうのが当たり前の時代ですよね。

日々の忙しい診療の中で、義歯や補綴物の技工を歯科医師が行うということが考えられますか?

どれだけ診療効率が落ちて、1日の診療人数が減少するかは想像がつきますよね。

 

つまり、現在は歯科技工士の存在と歯科医院の経営はきっても切り離せない関係ということです。

 

というわけで、今回はそんな歯科技工士の減少について、警鐘を鳴らしていきたいと思います。

歯科技工の需要

予防歯科の推進やデンタルIQの高まりなどにより、虫歯本数の減少・残存歯数の増加が厚労省のデータとして表れています。

しかし、超高齢化社会による義歯の増加、補綴物のやり換え、国民皆歯科健診の推進による潜在患者の掘り起こしなどを考えると、歯科技工物の需要は堅調に推移していくことが考えられます。

歯科技工士の減少具合

現実問題として、歯科技工士は急速に減少しています。

全国歯科技工士教育協議会の調べによると、養成機関・入学者数の推移は以下のようになっています。

1993年 72校/3,155人

2003年 69校/2,511人

2013年 53校/1,359人

2023年 46校/718人

30年で学校は72校→46校へ、入学者数は3,155人→718人へと約1/4以下にまで減っています。

 

厚生労働省「衛生行政報告例の概況」によると、就業歯科技工士数は2000年に37,244人でピークを迎えた後、3万5千人前後で推移し、2020年には34,826人となっています。

 

就業中の歯科医師数は全国で約10万人ですので、単純計算で1人の歯科技工士が3人分の歯科医師の技工物を作製しているということになります。

 

私は実際に歯科技工業務を行ったことがないので上記がどのくらいの負担感なのかは実際にはわかりかねますが、歯科技工士の長時間勤務が以前から話題に出ていることを考えると、きっと負担としては大きいのではないでしょうか。

歯科技工士の減少理由

労働人口の減少・職業の増加など要因は色々あるとは思いますが、「労働時間に対し対価が見合わない」構造が大きな理由の一つではないかと思います。

なんと歯科技工の公定価格は、30年あまりほぼ横ばいです。では、どうして公定価格が上がっていかないのでしょうか?

その背景には、補綴・義歯など保険診療の技工料金は国が決定し、その算定基準の参考値として、歯科医院が技工所へ支払う報酬額が使われているという仕組みがあります。

歯科医院側が価格圧縮すれば、それが基準となり公定価格にも波及しやすく、結果として歯科技工士の労働単価は低いまま固定化されやすくなります。

このループは、歯科技工士という職業の選択を減らし、現役歯科技工士の疲弊と離職を招き、さらに供給数を減少させている要因となっています。

デジタル化が進まない理由

人手不足の解消のために、CAD/CAM・3Dプリンターなどのデジタル技術の活用があります。しかし機材導入コストだけでも数百万以上かかります。個人ラボでは設備投資が現実的でないことも多く「デジタル化を進めたいが資金がない」という状態に陥っています。

参考となるのは中国の施策か

中国でも日本と同じように、歯科技工士の減少は業界の問題です。そこで中国では、小規模ラボを統合し、大規模化することによって資本を集中し、機械化・デジタル化をどんどん推し進めています。統合により設備投資が可能になり、量産・効率化が可能になります。

日本で同じことが起きた場合の未来予測

日本のように小規模ラボが乱立する構造では、技工料を上げたくても「なら他の技工所に依頼するからいい」となるため、価格競争に頼らざるを得ません。もし中国のような統合が起これば依頼先が減り、一定単価でも依頼せざるを得ない状況が生まれる可能性があります。つまり、技工側が価格交渉で対等なポジションに戻れる未来も考えられます。

国際競争への参入可能性

大規模ラボが海外市場へ参入できれば、価格は国際基準に引き上がる可能性がでてきます。例えば、海外で1本1万円、日本国内は5千円という価格差があれば、日本よりも海外の歯科医院をターゲットにするという判断は自然です。まして、医師側も患者側も日本人はなにかにつけて細かいということが多いとすれば、なおさら海外をターゲットにしたいと思うのではないでしょうか。

言語の壁がどうしても強いですが、上記のようになれば結果的に国内技工価格が引き上げられ、技工士に適正な収益が還元される未来もあり得ます。

まとめ

歯科技工士がいなければ、義歯や補綴物は作れず歯科治療は成り立ちません。

現在の歯科技工士の減少ペースを考えれば、未来は既に始まっています。

歯科技工士の増加・定着のために、労働環境や給与の改善は、業界全体が個々や組織の取り組みとして意識していけるといいかもしれません。

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