歯科医院における人件費という【見えにくい資産】

労務・人事評価・採用

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こんにちは!
歯科医院地域一番実践会の萩原直樹です。
歯科医院の経営に携わっていると、避けて通れないテーマの一つに「人件費」があります。スタッフの給与や社会保険料はもちろんのこと、院長先生ご自身の役員報酬も含めて、人に関する費用は医業収入の中でも最も大きな割合を占めます。そのため、多くの院長先生が「人件費が重い」「利益が出にくい」といった不安や葛藤を抱いていらっしゃいます。

しかし、私は数多くの医院を支援してきた経験から、明確にお伝えできることがあります。
それは、人件費は削るべき経費ではなく、未来の売上を生み出すための“最も重要な投資”であるということ。役員報酬まで含めて人件費率を計算した場合、多くの成長医院は 45〜55%前後 に収まっており、自然で健全な水準であるという点です。

本記事では、人件費をどのように捉えれば医院の成長が加速し、スタッフが定着し、そして患者様に選ばれる医院を実現できるのかを、丁寧に解説してまいります。

人件費は「増えると利益が減る」のではなく、「使い方次第で利益を生む」

院長先生方が特に悩まれやすいのは、「人件費が増えると利益が減るのではないか」という恐れです。もちろん、スタッフを増やせば一定の人件費は発生します。

しかし、人件費は単純に“支出”として扱うのではなく、その分が“何を生み出しているか”を見て判断する必要があります。

たとえば、歯科衛生士を1名増やした場合を考えてみましょう。衛生士の年間給与が400万円前後だとすると、一見大きな支出に感じられるかもしれません。しかし現実には、

・メンテナンス枠の増加
・SPTやSRPの実施数の増加
・継続来院率の向上
・患者数の増加

など、複数の経済的効果が同時に生まれ、年間2,000万円近い売上増につながることも珍しくありません。つまり、衛生士1名を採用したことで「年間1000万円の利益を生み出した」という構造すら起こり得るのです。

ドクターのアシスタントも同様です。アシスト体制が整うことで、ドクターの診療スピードは大幅に向上し、1日の診療量が増えます。

人件費とは単に「かかるもの」ではなく、使い方次第で「大きな利益を生むもの」なのです。

正しい人件費率は「スタッフ人件費+社会保険+役員報酬」で判断する

多くの院長先生が勘違いされがちなのは、人件費率を“スタッフ給与だけ”で評価してしまうことです。
たしかに、一般的なスタッフ人件費率の基準として25%という数字が使われますが、これはあくまで表面的な数字です。

本来、人件費率には

・常勤・非常勤スタッフ給与
・社会保険料(医院負担分)
・賞与
・手当類
・そして院長先生の役員報酬

を含める必要があります。

これらをすべて含めると、多くの医院の実質的な人件費率は 45〜55%程度に落ち着きます。
そして、この水準にある医院こそ、役員報酬が適正に確保され、スタッフの給与も適正に支払われ、採用と教育に投資できている“強い医院”である場合が多いのです。

むしろ、人件費率が極端に低い医院は、

・スタッフが慢性的に不足している
・ドクターが全てを抱え込み疲弊している
・教育不足により離職が多い
・患者満足度が下がっている

といった問題を抱えていることが非常に多く、長期的な経営を鑑みるとむしろ危険な状態です。

人件費が重く感じる医院は「人数」ではなく「仕組み」に問題がある

人件費が重く感じられる最も典型的な原因は、実は“人数が多いから”ではありません。
本質的には、「生産性を高めるための仕組みがない」という点にあります。

教育制度がなく、新入スタッフが育たないまま院長先生がすべてをフォローしている医院。
カウンセリングの精度が人によってバラつき、自費の説明が十分に行われず、結果として売上機会を逃している医院。
受付が混乱し、新患予約を取りこぼし、キャンセルが埋まらない医院。

こうした医院では、スタッフが多くても生産性がほとんど上がらず、「人数の割に利益が出ない」という状態になってしまいます。

逆に、生産性の高い医院は、

・DHが目の前の患者様に集中できる仕組みがある
・DAの配置が最適化され、ドクターが最大限のパフォーマンスを発揮できる
・受付が機能しておりキャンセルや電話対応が安定している
・院長が現場に入り過ぎず、マネジメントに時間を使えている

このように“仕組み”が整っているため、スタッフ数が多くても一人ひとりが高い生産性を発揮します。結果として、人件費率が高くても驚くほど利益が残ります。

給与の決定は「相場」ではなく「医院の未来」を基準にすべき

給与をどう決めるかという問題も、医院の成長を左右します。
「相場より高く提示すれば採用できる」「給与を上げると経営が厳しくなる」という表面的な判断は、長期的な成長を阻害します。

本来、給与とは

・医院がどこを目指しているのか
・どのような人を採用し、育てたいのか
・どのような医院文化をつくりたいのか

といった「医院の未来像」とセットで設計されるべきです。

特に、衛生士の給与体系や歩合制度は、医院の方向性と一致していなければ機能しません。
歩合給は20%前後が現実的な上限ラインであり、医院全体の人件費バランスを崩さず、かつ衛生士のモチベーションにもつながる設計が必要です。

人件費率は“過去の結果”ではなく“未来への投資割合”である

人件費率が怖くなる最大の理由は、「今月の利益」という短期視点で数字を見てしまうからです。
しかし、人件費とは未来の売上をつくるために、今どれだけ投資できているかを示す指標でもあります。

新規開業、分院展開、組織拡大、教育体制の構築など、医院の成長期には必ず人件費率が一時的に高くなります。
しかし、この時期に採用や教育を縮小してしまうと、その後の数年間の成長が確実に鈍化します。

一方で、人件費率が50%を超えても、継続的に採用と教育に投資している医院は、3年・5年という長期スパンで見ると着実に成長していきます。

医院経営は、単月の利益ではなく、「どれだけ長く続き、どれだけ人が育ち、どれだけ患者様に貢献できるか」という視点で捉えるべきなのです。

人件費は“削減対象”ではなく、医院の未来をつくる“最強の投資”

歯科医院の人件費は、単純に「多い・少ない」で判断するものではありません。
重要なのは、

・人件費が売上を生み出す構造になっているか
・院長先生の役員報酬を適切に設定しているか
・スタッフが成長し、定着する環境を作れているか
・教育と採用に継続的に投資できているか
・仕組みを整えることで生産性を上げられているか

という中身です。

役員報酬を含めた実質人件費率が50%を超えても、
医院が成長しているのであれば、その人件費は正しく機能していると判断できます。

むしろ、人に投資ができている医院こそが、患者様に支持され、組織が安定し、長期的に強く成長していきます。

人件費とは、医院の未来そのものです。
人に投資できる医院は、必ず成長し、必ず豊かな組織になります。
そして、それこそが「選ばれ続ける歯科医院」の最も重要な条件だと考えております。

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